間 取 り 作 成 

目次
柱と壁と窓で間取りを描く
ゾーンニングプランニング
階段の描き方
2階はどうやって描くのか?
丈夫な建物を設計するためには
CADソフトの使用
木造建築の長さと面積の単位について
はじめに

 

欠陥住宅の被害に会わないようにする為にも、本当の意味で自分にあった家に巡り合うためにも、家造りの第一歩になる間取りの基礎は、自分で勉強する以外にないのかも知れません。

これから住む自分の家。それを、自分の力で設計してみたい方は多いはず。しかし、簡単なようでなかなかうまく出来ないものです。間取り作成ソフトは、1万円前後で数多く販売されていますが、これで間取りが出来上がってしまえば、建築士の知識も必要ありません。でも、間取りは自分の好きなように描いていけばいいというものでもないのです。

少しだけ勉強すれば自分の気に入った間取りを描くノウハウを身につけることは可能です。ここでお話する間取り設計は失敗しない設計を考えるための第一歩です。

 

 

第1章

 

 

 

 

(1)用意するもの 方眼紙(できればB4の大きさをお勧めします。)、鉛筆、消しゴム

(2)まず柱と壁を方眼紙に描いてみます。図1のように柱は小さな丸で表し、壁は直線で描きます。定規は使わずにフリーハンドで描いていきます。先に柱を描いて柱と柱をつなげていく感じで壁と窓を描いていきます。

図1

(3)では6帖の部屋を描いてみましょう。6帖の部屋は図2のように、たて3cmよこ4cmで表します。

図2

(4)次ぎにこの6帖に図3のように窓とクローゼットと入口を付けてみます。要領は初めに図4のように柱を全部描いてしまいます。柱は全部で12本です。柱を全部描いたあとで、窓、ドア、クローゼットをます。

図3図4

ここまでが柱と壁と窓で間取りを描く時の基礎になります。実際の建物でも柱がどこにくるのかということが重要なポイントです。どこに柱がきているかを把握しないで間取りを描くと一番影響がでるのが建物強度なのです。このことはまたあとのほうでお話します。

 

 

 

 

 

 

 

 

第2章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実際のまどりを描いていく手順を2階建ての1階部分で説明します。

(1)ゾーンニング

おおまかな部屋の配置を図5のような感覚で決めていきます。キッチン、リビング、洋室、収納、浴室、洗面、トイレ、玄関、階段、ホールの配置を細かい寸法は無視してイメージします。

図5

(2)ラフプランニング

次ぎにゾーンニングを元に、実際の大きさを方眼紙のマス目に割り付けていきます。最初はできるだけ1cm単位で割り付けをします。とりあえず柱の位置を無視して図6のようなラフプランニングです。鉛筆をフリーハンドで消しゴムを使いながら描いていきます。

図6

(3)プランニング

ここのところが土屋流です。図6のラフプランニングを元に、図4でやったように、1階部分の柱だけを全て描いてしまうのです。1番目に部屋の角々の柱を入れます。2番目に窓の両端に柱を入れます。洋室とリビングの窓の幅は2cm、キッチンと浴室と洗面の窓の幅は1cm。3番目に部屋の入口の柱を1cm幅の所に入れます。洋室、リビング、浴室、洗面の4本の柱です。4番目に階段が回り階段になるのでその中心に1本の柱(a)です。最後に壁と壁の間が3cm以上離れている場所に2cmの壁が作れるように柱を入れます。(図7の場合はキッチンの4cmの壁のところに、柱(b)を1本入れます。)

図7の柱を数えてみて下さい。38本の柱があります。

どうですか?こうして考えていくと自分で間取りが描けることで柱の本数までを正確に知ることもできるのです。それだけではなく、柱の位置を正確に把握しますから、建物の強度に関するところまで自分でしっかり認識できます。

図7

(4)プランの仕上げ

図7のように全ての柱が描けていれば後は簡単です。図8のように柱と柱の間を壁、窓、ドアで結んでいけばよいだけです。

図8

以上の第1章と2章で、とりあえず1階部分は描けるようになったはずです。

自分なりに自由なゾーンニングをして、2、3種類プランニングまでをしてみてください。だんだん早く、壁、窓の直線も正確に描けるようになってきます(定規はぜったいに使わないこと)。初めのうちはチラシ等の間取りを練習台に図7の要領で柱を描いて壁、窓、ドアを仕上げていくのも効果的です。分かってくると、人の描いた間取りを自分で描くことで、その間取りの長所も欠点も見えてきます。間取りは柱の位置を常に意識して考えることが重要なのです。

 

間取りのワンポイント

建物の四隅は必ず、壁を1cm以上とること。地震の時に必要な強度を出す有効な方法です。

 

第3章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段の描き方(2階へのステップ)

(1)まず2階を描く前に理解しておかなければならないことがあります。そう、階段です。

大工さんでも階段廻りを描くのが苦手な人がいます。でもこれから書く理屈1と理屈2を知っていれば驚くほど階段は簡単に描けます。

 

階段の理屈1

 階段(1) を見て下さい。

これが直線階段の基本です。長さを3cmで描きます。そして図のように1cmを4段で割っていきます。全部で階段が12段ということになります。段が12ですから、2階の床が13段目になり、13段上りきりになります。

 階段(2)を見て下さい。

今度は廻りが1カ所あります。廻り階段の部分は3段で割り付けます。1段足らなくなりますから、足らなくなった1段を直線階段の終わりに足します。1段足すことで2階の床が13段目になり、13段上りきりになります。

 階段(3)を見て下さい。

今度は廻りが2カ所あります。廻り階段の部分は3段で割り付けますから2段足らなくなります。足らなくなった2段を階段の終わりに足します。2段足すことで2階の床が13段目になり、13段上りきりになります。

廻りが3カ所という階段も造ったことがあります。でも通常は廻りが2カ所までで設計して下さい。


階段の理屈2

図9を見て下さい。階段をよこから見た図です。

図9

階段を考える時、分かりにくいのは階段の高さがどのあたりまで1階の天井より下に出てくるのだろうか、ということです。2階から何段下りたとこまで1階の天井に出っ張らないでしょうか?

答えは2段下りたとこまでです。1階の天井の高さから2階の床までの高さは約60cm弱、階段1段の高さは約23cmですから階段2段分下りたとこまで1階の天井に出っ張らないのです。ただしトイレの天井はもう1段分低く造っても違和感がありませんから、階段の下の空間を有効に利用する為にトイレを階段の下に設計することは多くなります。

では、階段を下りていく場合は、2階の床がどのあたりで下りていく人の頭に当たるでしょうか?

答えは下から2段目までが当たらないです。3段目ぐらいになると人は階段を下りる時、前屈みの姿勢になるのでかなり圧迫感を受けます。

ですから階段に関しては、上2段下2段が1階の天井と2階の床に出っ張ってくると考えておけば覚えやすいと思います。

第4章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2階はどうやって描くのか?

図8を見ながら1階の外周と階段を描いた図10を作成します。図10の階段は3章で書いたように、2階から見た階段になりますから、図8には描いていなかった上の2段を足して、2階の床には出っ張らない下の2段を消します。図8と図10の階段の描き方を見比べてチェックして下さい。

図10

図10が描けたら、その中に部屋、クローゼット、ホール、トイレ、バルコニー等を割り付けていきます。各部屋はホールから入れるように、そして1階の壁の位置にできるだけ2階の壁がくるように、部屋を割り付けます。こうして2階のラフプランニングをしたものが図11になります。

図11

次に図6でやったように、2階の柱を拾い出します。図12のように1階の柱の位置を意識しながら2階の柱だけの図面ができます。自分で描いた間取りの柱の本数を数えてみて下さい。図12では37本になりました。

図12

 ここで、1階の柱と2階の柱の位置を調べてみることにします。

図12の2階柱図を使って、その上に1階の柱が同じ位置にある柱をピンクでマークしてみました。それが図13です。数えてみると29本の柱が1階と2階の柱が同位置になります。柱が同位置にあることで建物の荷重を基礎にまっすぐ伝えています。

まったく同じ量の木材を使うのであれば、間取りの取り方によって強度は大幅に違ってくるのです。

今までは1階と2階に分けて説明してきましたので1階の柱、2階の柱(これを管柱といいます)としてきましたが、1階と2階の柱が重なった建物の出隅には通し柱が入ります。図13にグリーンで示した4本が通し柱です。通し柱が入りにくい間取りはどこかに無理が生じていることも多いですから通し柱の入る位置や本数は一つのチェックポイントになります。ただし通し柱は建物の出隅に入れていくのが原則です。それ以外の箇所に入れた場合、反って構造的に弱くなる場合があるので注意が必要です。

図13

 

1階の仕上げと同じように図12を使い、柱と柱の間を壁、窓、ドアで結んできます。

 

図14と図15で1階と2階を仕上げてみます。

図14

 

図15

第5章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丈夫な建物を設計するためには

2階の間取りの取り方で、建物の強度に大きな差がでたり将来建物に歪みを生じさせたりすることが起きるということをお話します。これからお話することを知ってからの設計と知らないでの設計とでは家の財産価値に将来大きな差がでることになります。

 

a)1階の壁と2階の壁の位置を同じ位置に

1階と2階の壁の位置が同じ上下にある場合とズレている場合とでは強度に大きな差がでます。位置がズレているとモーメント(回転する力)が働きます。1階と2階の全ての壁の位置を合わせることはできませんから、上の階の荷重を下の階に、できるだけ真直ぐかけていくことを考える必要があります。

また、1階に大きな空間のリビングを造るためには、短い壁を適切に配置するなどして、1階全体の壁の量とバランスをとっていきます。

 

b) 2階の角が1階の部屋の空中にこないようにする

2階の角が1階の部屋の空中にきてしまうような設計は建物の強度の上でも一番問題です。想像しただけでも2階の角が1階のなにもない空間のところにきていれば構造的に弱いのではと察しがつきそうです。しかし、現実に多くの住宅の間取りのなかによく見られるのです。建築業者の中にはこうした設計を平気でするものも多いのが、現実です。もし、設計を依頼して、このような間取りが出来上がってきたとすれば、これはもう要注意。太い材料を使うのでこの間取りで全く心配ありませんなどと言ったとしても、家の強度のことなどぜんぜん考えていないのです。とにかく設計の基本は上の階の荷重を下の階に素直にかけていくことが原則です。

 

c) 戸が多すぎると筋交いの量が足りなくなる

筋交いとは柱と柱の間に斜めに入る木材のことです。斜めに入ることで建物にかかる水平方向の力を支えます。地震の横揺れや風の力から建物を支えているのは筋交いです。

なぜ壁が多くなることで強度が増すのかというと、壁の中には柱と筋交いが入るからです。柱は垂直方向の力を支えます。屋根の荷重を2階の柱が支え、屋根と2階の荷重を1階の柱が支えます。

柱や筋交いを被っているのが壁だと考えることもできます。ですから壁の量が少ないと建物の強度が不足してくるのです。

間取りを描く時に必要以上に戸を多くする方がいます。部屋の入口はほとんど1カ所なのですが、部屋と部屋を続き間にしたいために戸にしてしまうのです。なにかあった時に部屋を広く使いたいというのがその理由なのですが実際は戸の前にタンスがあったりして上手く続き間を活用されていない例も多いようです。

私としては大きな空間を、壁をバランスよく設計して広々とした間取りを造りあげていくことは大賛成です。その為には設計の最初の段階から柱や筋交い等の構造を理解しながらの計画が重要になります。

 

 

d)1階の車庫

よく3階建で1階部分が車庫になっている住宅を見かけます。この間取りを構造的にみると車庫の入り口部分には壁が全く無いわけです。そして悪いことに、車庫の隣には玄関戸があり、車庫側の1階部分にはまったく壁が存在していないことになります。

ほんとうにこの構造で役所に提出した建築確認申請図面の通りに施工しているのでしょうか?この場合のほとんどが建築確認の許可をとった設計と実際の施工が別物であることが多いのです。つまり役所に提出する建築確認用の図面と現場施工用の2種類の図面が存在し、役所の建築課では提出された図面を審査して、施工用図面の構造チェックに関してはノータッチになってしまうわけです。

施主様の中にはこうした自分の望み通りの間取りに満足をされる方も多いのですが、やはりこうした構造には問題が有り、それが強度不足の欠陥住宅になるのです。

 

e)壁をバランス良く配置する

壁は建物全体に片寄らせずに入れていくのが原則です。

私は阪神大震災のあと2回現場を視察しました。そこで分かったことは実際の地震の被害にあった場合の建物の倒壊する方向に法則があるということです。多くの倒壊した2階建て家屋は1階部分が膝を折るように潰れ、2階部分と屋根が1階を押し潰し、まるで平屋のように残っているというものでした。

その2階は、1階の弱かった方に傾いているのです。

また1階が潰れていない建物でも、傾いてしまっている建物は壁量の少ない、または壁が入っていない方向に傾いていました。

しかし、地震の被災地の中には同じぐらいの年代に建てられ、同じような材質の建物でも損傷に大きな差がありました。被害をほとんど受けていない住宅の中を見せていただくと、壁の量、位置、バランス共に基本に忠実に設計されていました。逆に外観はとてもよく出来た住宅であっても、壁の量、位置、バランスの設計に構造上の問題があり、修復不可能なものがありました。

壁をバランスよく配置するのは設計の基礎なのです。

 

f)建物の角は壁にする

壁をバランスよく配置するのと同じくらい重要なのが、建物の角にはできるだけ壁を造ることです。建物の4隅に2方向ずつの壁をとれば、壁が8カ所できることになります。現実には玄関が1カ所隅にくることが多いですが、角はできるだけ壁を配置することを忘れないで下さい。角に筋交いが入ってくることで建物は、より強度を増してきます。

そうは言っても、例えば南側に隣家があって家の角を壁にするより窓の方が明るくなって、風通しも良いという場合もあります。その場合は、角の壁に相当する量を他の壁でしっかり確保します。

第6章

CADソフトの使用

方眼紙に鉛筆で間取りを描くことに慣れてきたら、次はもっと綺麗な図面に仕上げていくことができます。つい20年程前までは図面の製図といえば、ドラフターという製図用具を使い手作業で仕上げるのが主流でしたが、現在はパソコンの進化によって、パソコンとマウスを使っての製図が一般的になりました。図面を扱うパソコンソフトはCAD(キャド)といいます。CADソフトは初心者用のものですと価格も安く、数社から出ています。初心者用のCADソフトでも平面図だけを扱うのでなく3Dでいろいろな角度から設計した建物を検討することができるので、自分で描いた間取りがどんな形の家になるのかを知るためには便利なツールです。

ネット上には無料のCADソフトもいくつかあります。私自身が使ってみて、なかなか良くできている無料CADソフトをためしてみてください。

 

おすすめ無料間取りソフト

 

ただし、どんなCADソフトでも使う上で、注意が必要です。

1番の注意点はどんな間取りでも家らしく仕上げてくれてしまうということです。つまり、建物の構造に詳しくない人が描いた間取りでもそれらしく出来上がってしまうのです。CADソフトの中には診断機能を備えたものもありますが、まだまだ建物の構造をきちんとチェックしているものはありません。

 

1章から5章までに書いた間取りの描き方のポイントを理解していれば丈夫で使いやすい間取りを設計できます。方眼紙に鉛筆で間取りを最初に描いてからそれを下図にCADソフトで仕上げていくのは、まず柱、壁、窓、1階と2階の位置関係などを頭の中でまとめながら、方眼紙に描いていくのが効果的だからです。いきなりCADソフトで設計してしまうのではなく、まず描いた間取りが構造上どうなんだろうと考えながら設計すれば、それだけで図面を見る目がずいぶん違ってきます。

欠陥住宅の被害に合わないためにも、自分の家の設計に目を向けて、間取りの基本を理解することの重要性を知っていただければと思います。

(補足)

木造建築の長さと面積の単位について

建物の長さを表す単位は現在ではメートル法を使いますが、間取りを考える時には間(けん)と尺(しゃく)を理解しておいた方が便利です。

1間=6尺=1820mm

半間=3尺=910mm

方眼紙を使って間取りを描く時は半間を1cm、1間を2cmで描いています。

例えば図6ではユニットバスと洗面所の大きさを1間X1間で、クローゼットを1間X半間(=1間X3尺)で、洋室は2間X2間で描いています。

 

なぜ間と尺を使うのかと言うと、建物面積を表す単位の”坪”と部屋の広さを表す”帖”を計算するのが楽だからです。

1坪=1間X1間=2帖

ユニットバスも洗面所も1間X1間ですから面積は1坪、洋室は2間X2間ですから4坪になります。4坪=8帖になりますから、洋室は8帖の広さです。部屋の広さは現在でも平方メートルで表すより畳みの枚数、8帖で表す方が感覚的に分かりやすいようです。分かりやすいと同時に建物面積を計算する時は坪数を計算してから、1坪=3.3124平方メートルで換算します。(平方メートルを使って計算しても結果は同じですが、坪数に3.3124を掛けて平方メートルに換算した方が早く計算できます)

 

1坪の換算式をもう少し詳しく説明すると、

1坪=1間X1間=1820mm X1820mm =3.3124平方メートル  となります。